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高松高等裁判所 昭和48年(ネ)208号 判決

控訴人

安西茂則

右訴訟代理人

岡林靖

外一名

被控訴人

株式会社 源芳

右訴訟代理人

飛田正雄

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人が請求原因第一項で主張する宅地及び建物を所有していること、被控訴人が右宅地の西側にこれと隣接して被告所有宅地を所有していること、原告所有建物の西側の壁にはひび割れが生じていて修繕する必要のあることは、いずれも当事者間に争いがない。

二民法二〇九条は、同法の相隣関係を規律する他の諸規定とともに、相隣接する土地相互間の利用関係の調整を図ることを目的とする規定であつて、その法意に鑑みると、隣地立入使用請求の相手方たるべき適格を有する者は、現に隣地を利用してこれを占有している所有者、他上権者、賃借人などの占有であると解するのが相当であり、従つて、たとえ所有者であつてもこれを他に賃貸して現にこれを占有していない場合には、その相手方となる適格を欠くものといわねばならない。すなわち、かかる場合には所有者に対する民法上の隣地立入使用請求権は発生しないのである。

三今、これを本件についてみるに〈証拠〉を総合すれば、控訴人は、被告所有宅地のうち、原判決添付図面の「安西医院」を除く東側及び南側の空地をアスファルト舗装したうえ、北側入口から南端にかけての空地部分を共同の通路にあて、その東側に原告所有建物に隣接して南北九区画、右道通路の西側に南北三区画、いずれも地上に白線による仕切りをしただけで自動車置場となし、現在、控訴人が当審で主張するとおり右区画部分全部を第三者に賃貸し、控訴人自身は、これらいわゆる青空駐車場全般にわたり管理支配の権能を全く喪失していることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四被控訴人は、この点に関し右賃借人らは貸主たる控訴人に対し極めて弱い立場にあり、かつ土地所有者たる控訴人がその土地への立入使用を拒否して抗争する以上、控訴人をも隣地立入使用請求の相手方に加える必要がある旨主張するので検討する。

前記認定のとおり、本件の賃貸借は、いずれも自動車置場(青空駐車)として利用することを目的とし、建物の所有を目的とするものでないことは明らかであるから、もとより借地法の適用はなく、民法の原則に従うべきものである。ところで、民法六一七条一項一号によれば、土地賃貸借契約の当事者はいつでも解約の申入をなすことができ、その場合には一年の経過によつて賃貸借が終了するものとされているが、〈証拠〉によれば、本件賃貸借については、この期間がいずれも三ケ月に短縮されていることが認められ、この点において借主が貸主に対し、借地法の適用ある場合に比し弱い立場に立つものであることは、否定しえないけれども被控訴人が本訴で請求する隣地の立入使用を必要とする期間が極めて短いことを斟酌し(その工期は晴天の続く場合約一五日間であることは被控訴人の自認するところである。)、また、〈証拠〉によれば、前記賃借人らがいずれも被控訴人に対し予め書面で自己の駐車場区画部分の立入使用を承諾していることが認められるので、貸主であり土地所有者である控訴人を現段階において相手方となすべき特段の必要性あることを肯認することができない。

のみならず貸主が土地についての管理支配の権能を喪失し、借主が使用占有している以上、土地の使用関係の調整は、専ら隣地利用者相互間においてなさるべきことは前説示のとおりであるから、借主の使用占有権能が、いかなる種類程度のものであれ、現に土地について全面的な支配権能を有する以上、隣地立入使用請求は、その借主のみを相手方となすべきものと解すべきである。〈証拠判断省略〉

よつて、被控訴人の前記主張は理由がない。

五以上の次第であつて、被控訴人は隣地占有者に非ざる控訴人を相手方として本訴を提起したものであるから、同人に対しては民法上の隣地立入使用権を取得するに由ないものである。〈以下、省略〉

(村上明雄 石田真 辰巳和男)

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